小説 寂寥part1 アパート住人の日記
築70年の老朽化したアパートの前に管理人と工事業者が何やら話し込んでいる。最後の住人がお亡くなりになられた。ようやくやくこのアパートの取り壊しが出来るようになった。この住人は6か月先の家賃まで管理人に振り込んでいた。管理人はこの住人の親族である保証人に連絡をとったが音信不通。そこで保証人が住んでいる家にむかったところ空き地になっていた。親族は役場に問い合わせたら保証人は10年前にお亡くなりになったとのこと。どうも住人には頼るべき身寄りはなさそうだ。これでは、管理人が特別縁故者になるしかなく、半分嫌な気持ちで遺品整理をはじめた。
そこには、若かりし頃の写真と日記が散らばっていた。まるで俳優と女優に見間違えるくらいハンサムな男性と美人が写っている。華やかな若かりし頃が想像された。管理人はそれを見てため息をついた。
その写真の背景には大邸宅が写っている。さぞかし優雅な暮らしをしていたことが想像できる。事業などで羽振りが良かったのか写真を見る限り。随分立派な家に住んでいたようだ。さらに立派な邸宅を背景に美しい妻と子供らしき人物が写っている。誰もが羨むのような人生だ。そして、その脇には日記と思しきノートが10冊あった。しかし、写真をめくっていけば行くほど、この住人の顔に品性が失われ、ドヤ顔に変わっていく。背景も次第にみすぼらしくなっていく。その終着点がこの老朽化したアパート。晩年はこういうアパートで迎えることになったかもしれないが。この人は、一般の人より幸せな人生を送っていた。一体彼に何があったのだろうか。なぜ、ここまで落ちぶれたのか。管理人は、そんな住人の人生になんかしら興味を抱くようになった。管理人は、彼の事をもっと知りたくなった。遺品整理には時間がかかるので、もう少し時間を頂けないかと工事業者に伝え、工事の延期をお願いし、工事業者は遅延金をいただくことで渋々了承した。管理人はこの住人の日記を自分の部屋に持ち帰って夜通しで日記を読み始めた。
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