(ドラマ/映画であの時代にgo!)映画「赤線地帯」とその時代

名前が直接過ぎてちょっと恥ずかしくもなりますが、この映画は昭和20年代日本の風俗社会を考察する上で非常に参考になります。僅か70年の間に私たち日本人、というよりこの間に女性たちの社会的な立ち位置が驚くほど変わってしまいました。その当時は、統計的に働く女性の多くが芸者や酌婦などでした。そういう点では、この時代の女性から見た今の日本はどれだけ歓楽街的な場所が少なくなり、女性のほとんどが男性と同じような職業に就いていることにびっくりするのではないでしょうか。一方、同時代に「嵐を呼ぶ男」で北原三枝が現代に通じるキャリアウーマンを先どった役を演じております。今回は、ちょっと飛躍もありますが、この映画を風俗の視点ではなく文化人類学的に考察してみたいと思います。

1.それぞれの事情を抱えた娼婦たち

この映画に出てくる娼婦を簡単にまとめると、普通の主婦を夢見る娼婦(町田博子)。病気の夫と幼子抱えて娼婦として生活費を稼ぐ(木暮美千代)。一人息子を育て一緒に生活することを夢見る娼婦(三益愛子)。男を手玉に取りひたすらお金を貯めまくる娼婦(若尾文子)。金持ちの不良ドラ娘の娼婦(京マチ子)。みんな個性の強い娼婦たちですが、溝口健二はお茶の間のドラマのような軽快なタッチで展開していきます。その頃の日本では、女性がお金を稼げる職業は非常に狭いもので、味方によって貞操概念さえ取り除けば、堅気の職業より高給を得られる数少ない職業でした。映画でも堅気の給料は安すぎて戻れないというセリフや若尾文子演じる娼婦に至っては、貯めたお金でお得意様の店を買い取り布団屋の主人になり替わるなどの場面があります。ただ、一方ではどうしても貞操感などのハードルはいつの時代も同じで、一人息子の生活費を稼ぐ娼婦は子供に職業を知られてしまい子供から縁を切られ精神を病んでしまいます。また、病気の夫を抱える娼婦の夫は何度も自殺未遂を繰り返したりと娼婦に付きまとう不幸が不幸を呼ぶような悲劇をさりげなく演出しているところは巨匠溝口健二たるところです。



2.男女の出会いの場

一般的に、こういった置屋に働く女性は、様々な事情を抱えてやむなく仕事についているという悲壮感の漂う設定がほとんどですが、逆説的に捉えると、時代背景的には貴重な男女の出会いの場も兼ねていたという側面も強いようです。その頃の日本は、身分制度も幾分残って見合い結婚が主だったので恋愛感情なしに夫婦になっていることは少なくありません。こういった場は違った意味での既婚者有無に関係なく男女の出会い場でもあります。太宰治の人生においても関係する女性のほとんどは玄人系です。このため、遊び人で置屋に通う人もいれば、本気になって結婚まで考えながらお金を突っ込んでくるお客もいます。男性にとってはそういった切なさも秘めています。

3.恋愛とは何か

男女が平等になる。このことは男にとって女性の扱いが上手でないと結婚機会を喪失させる革命に近い変革であると私は思っています。そもそも自由恋愛をできる男が100人中どれだけいるのかということです。それがごく少数だからこそ今の日本には独身男性で溢れ却っているのです。高度成長期までは、女性にお金を稼ぐ手段がなかったから多くの男が結婚できました。しかし、現在は違います。女性が無理してまで好きでもない人と結婚する必要がありません。彼女らにとっては、財力一辺倒だけでなく男性の容姿もしかり、女性を楽しませる優しい雰囲気など結婚に求める要求は様々です。逆に見合いなどは彼女らのスペックを顧みず相手の容姿やスペックを要求する本末転倒的な事も少なくありません。

つまり、こういった歓楽街の色恋沙汰は、女性をしらない男にとっては女性を学ぶ疑似恋愛の場でもありました。それもあと腐れのない心や体の触れ合いを兼ねております。人とのコミュニケーションが難しくなっている現代社会においては色恋沙汰など簡単に起こすことはできません。一歩間違えばセクハラになります。このため、男女間の恋愛として一歩踏み込めず独身を貫いている人が多くなっています。

4.女性の自立

バブルが崩壊し高度成長期のような専業主婦の人生モデルを失った女性たちは強くなりました。そして女性の社会的権利も確立したことで、優秀な女性だと有名企業への総合職入社、弁護士や医者など男性と同じように活躍するようになりました。また、父親の事業を引きついて社長業の携わる女性も増えています。一方、欧米諸国をみれば、女性の首相や閣僚、一流企業の社長を多く輩出しています。

なので、こういう映画をみていると牧歌的な男女関係を感じざる得ません。今の社会で起きていること。それは熟年離婚の増加です。離婚が出来るほど女性が強くなり、この70年間に男女間の距離感が大きく変わったことを示唆しています。私たちが70年前にタイムスリップしたら、そこには今と違った男女の距離感に出会って驚きそうな気配です。 

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