小説 40年の月日が物語るオジの男やもめ

 彼は60歳の定年間近の会社員。役職は担当部長職である。周りから見たら立派なオジである。鏡を見れば老けた年相応の男がそこにいる。彼は、数十年ぶりに大学の親友とあった。そこにいた親友は大学時代とさほど変わらない時間が止まったような雰囲気を漂わせていた。二人が並ぶと10歳以上の年齢差があるようだ。聞くと、ある会社で専門職についているとのことで非常に軽い雰囲気を漂わせていた。

 彼は、非常にまじめな性格であった。彼の職場ではゴリラ顔の上司が威勢をはって指揮をとっていた。当然であるが、ゴリラ上司は部下も含め多くの敵を抱えていた。部下の場合は、ゴリラ上司と合う合わないでその後の出世が決まるわけだが、彼はそういったゴリ顔の上司に好かれていた。このゴリラ顔の上司は、その上の上司の顔色をうかがう事ばかり考えて、実作業は常に右往左往していた。当然であるが、このあおりを受けるのがゴリラの部下連中であった。余りにも雑な作業の進め方に一般常識のある部下からそっぽを向かれてしまうほどの亀裂が走ることも少なくなかった。しかし、その上の上司に対するゴマすりが功を奏して、ゴリラは人事的な処罰を受けることなく順調な出世をしていた。当然であるが、このゴリラは出世の過程で自分にそぐわない部下を追い出し、ゴリラに従順な連中だけに恩賞をあたえているので、必然的にゴリラの意向に対して抵抗する部下は皆無になってしまった。

 彼は、そんなゴリラ上司の右往左往の施策に対し、さしたる抵抗をせずに忠誠を尽くしていたので、そういった点ではゴリラからの評価が高く、順調な出世をしていた。時には、ゴリラのストレス解消として一緒に飲みに行かされ、聞きたくないゴリラの身の上話や仕事に対する考え方、会社の人間関係などを聞かされた。さらには、彼に対しての仕事の仕方に対しても説教というか叱咤激励などしていた。当然であるが、理路整然でない仕事で達成を求められ、ゴリラの人間的な対応も余儀なくされていたので、そのストレスは相当なもので、彼は30代で白髪が増え始め、40代ではストレス解消の酒飲みすぎがこうじて、顔が黒ずんできて立派な親父顔になってしまった。それでも、ゴリラのおかげで実力がない割には、上座の席に座って仕事をする立場になっていた。家では、土日も仕事をしているか、仕事のストレスを発散するかのどちらかであり、妻、そして子供とさえ会話をしなくなった。そうして、ひたすら仕事をして、家に給料を運んでくるというマシンのような生活を何十年も続けていた。

 彼は、50歳になり、ゴリラのおかげで担当部長まで出世した。同期では結構出世をした部類に入る。ゴリラは事業部長まで上り詰めたが、役員クラスの上司にはゴリラのゴマすりは通用しなかった。そのため子会社に出向し、さらには閉職に追い込まれた。それと時を同じくして、新事業部長はれっきとした実力主義者であったため、もともと能力に欠けていた彼も閉職の担当部長に追い込まれ、定年までの間は部下もいない簡易な仕事だけ与えられるようになった。

 そろそろ定年に差し掛かり、老後の準備にはいるが子供はすでに自立していたので夫婦二人だけとなる。しかし、彼の妻がそれを拒否し離婚を申し立てた。そして彼は定年前に離婚することになった。実質、独り身である。大学の親友が不憫に感じて、結婚を希望している独り身の女性を紹介した。しかし、その見合いの後、その女性は半分怒り気味となったらしい。その女性曰く、収入や年金などの諸条件より、身なりが普通でできればさわやかな人を希望していたとの事。友達は彼の心持の良さを彼女にしつこすぎるくらいに説明をしたが、彼女は、「ふざけないで。こんな男と」という気持ちになったらしい。男も女性慣れをしていないと結婚すらおぼつかなく再婚と言えども婚活の大変さをしった。こういった市場を通して程ほどの経歴で遊びなれた男たちが多いことにも気付いた。彼からするとこの40年が浦島太郎のような状態にすら感じるようになった。そういった紆余曲折を重ねながら、学生の時と同じようにアパートで男やもめの生活をおくるようになった。あの時は紅顔で全ては新鮮であった。鏡をみるとあの頃の面影はなく、ただ疲れたオジが映し出されている。時の流れは、残酷であり、あの頃には戻れない。しかし、一生懸命に仕事をして、子供も立派に育てた。その過程で自分の羽を一つ一つ切り取って醜くなってきたような気持だ。家にいても何もすることはない。テレビをながら見をしながら昼間から酒を飲んでだらだら一日を過ごしていた。ある日、彼の前に40歳くらいの気品のある女性が近寄ってきた。その女性はどうも彼を気に入っているようでもある。そして二人で遊園地の中で甘いラブロマンスドラマのような珠玉の時を過ごしている時に、ふと目が覚めた。アパートの天井が見えた。今の彼にとってはそんな恋愛は夢の中でしか訪れないようだ。彼は現実というのが本当に無残で残酷であるように感じた。


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